「十四世紀の神聖ローマ帝国辺境で、人知れず果たされたファーストコンタクトから始まった運命の変遷を描く長篇歴史SF」
これはまるでマイクル・フリンの『異星人の郷』ではないか。
歴史物だと思いこんでいたので読まずにいたのだけれども、文庫化された裏表紙のあらすじを見てびっくりしたのであわてて読んでみることにしたのだが、いざ読み始めてみると『異星人の郷』とは全く違った話だった。
異星人は何でもできる万能型異星人で、異星人というよりも神様に近い。妖精に対してSF的な設定をしてみたといってもいいのかもしれない。ファーストコンタクトであることには変わりはないけれども、ファーストコンタクトに主眼があるわけではなく、街を作り発展させるという、どちらかといえばいつもの土木SFに近い話だ。
神様に近い能力を持つ異星人に、時々手助けをしてもらいながら街を発展させていくので物語の流れは比較的スムーズで重厚さよりも軽快さが上回っている。もっとも、困ったときには異星人が助けてくれるとはいえども、さまざまな問題が次々と主人公達に降りかかるし、基本的には主人公の知力によって問題を解決することになるので、ご都合主義と感じるまでは行かないところはさじ加減がうまいと思う。
副題に「興亡記」とついているけれども「亡」の部分は無い。あくまで前向きであるところはいつもの小川一水であって、安心して読むことが出来る。
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