個人情報流出のニュースを耳にするたびにボブ・ショウの「去りにし日々今ひとたびの幻」を思い出します。この小説はもともとは「去りにし日々の光」という短編でした。
光が通過するのにものすごく時間のかかる「スローガラス」という存在がこの話のメインアイデアです。薄さは普通のガラスと同じ、なのに光が通過するのに何年もかかる。このガラス越しに見える景色は数年前の景色なのです。
ボブ・ショウは「去りにし日々の光」でこのガラスを使って切ない物語を紡ぎ出しました。そしてその後、スローガラスの可能性を突き詰めて「去りにし日々今ひとたびの幻」という長編に仕立て上げたのです。
スローガラスごしに見える風景が数年前のものだということは、逆に言えば光を記録することができるということ。最初は単に綺麗な風景を見せる、癒しアイテムとしてしか使われなかったスローガラスが長編の中盤付近になると、記録装置として使われるようになります。やがて偽装された監視用カメラとして使われはじめ、プライバシーや秘密を守ることが難しくなり始めるのです。
個人情報の流出どころではありません。国家機密だって流出します。
それに対して主人公はどうしたのかは読んでのお楽しみ。
と言いたいのですが、「去りにし日々今ひとたびの幻」は絶版となっているので入手困難、しかもサンリオSFなのでこれが文庫の古本の値段かと思うような値段でしか手に入らないと思います。
簡単に話してしまうと、プライバシーや秘密に対する価値を相対的に無価値にしてしまうことで事態を収束させてしまいます。昔読んだきりなのでちょっとうろ覚えなんですが、多分そんな結末だったと思います。
個人情報が流出するのは個人情報に価値があるからで、これを無価値にしてしまえば流出しても何の問題もないわけです。まあ現実的には無価値にしてしまうのは困難なのですが、こういった方法でのアプローチがあってもいいじゃないのかって思ったりもするわけですよ。
ああ、こんな事書いているともう一回読み直したくなってきたんですが、本を発掘するのが困難だ。
個人情報の価値


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