共感できそうもない人物ばかりを登場させて、人と人とのつながりの物語を描いた話だ。
主人公は二人の女性。
一人は商社会社に勤める栄利子。
もうひとりは人気ブロガーの主婦翔子。ともに同年代。
一方的にブログを読んで共感しているだけの立場だった栄利子は翔子と知り合い、友だちになる。のだが、ふたりとも友達と呼べる友達がいない。
友だちがいないことに対する渇望が二人の関係を急速に友達へと発展させていくのだが、それは栄利子の側だけであって翔子のほうはそれほどでもない。いびつな関係はやがでサイコホラーといってもいいようなストーカー小説へと発展していく。
最初は友達はいないけれどもそれなりに仕事ができて優秀な栄利子の物語だと思っていたら、その栄利子は友達をつくることが下手で、ようするに自分の主張、つまり自分の考える友達のありかたを相手に強制してしまうタイプの人間であるために彼女の行動は常軌を逸した行動へと向かっていくのである。
結果、翔子の浮気の場面を写真にとり、それを親友となるための脅迫手段として使うところまでいく。
一方、翔子は翔子の方で実家に問題を抱えており、二重苦の状態になるのだが、彼女自身もいつしか別の人間に対して栄利子と同じことをするようになっていく。
タイトルにあるナイルパーチはスズキの一種の魚のことだが映画『ダーウィンの悪夢』でも有名になったように、環境破壊の代名詞でもある。ナイルパーチ自身にはなんの問題もないのだが、タンザニアのビクトリア湖に放たれた事によって、それまでの生態系を破壊するレベルまで繁殖してしまったのだ。栄利子も翔子もナイルパーチなのである。
ここまでくるともはや修復など不可能、いや、サイコサスペンスとして突き進むしかないのではないだろうかと、読みながらハラハラする一方で、二人の中に自分自身の存在を見てしまう。
自分の中の見たくはない、あるいはそういう自分がどこかにいることを頭の中で理解しつつ、日常の中ではそういう自分を表に出さないように努めてきた負の部分を写し出す鏡を見ているような感じに襲われる。
いや、すごいものを読んだ。
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